「複調」音楽は面白い~調性が2つ存在する音楽の持つ響きとは?~

はじめに
今回は音楽理論の中でも、特に調性、つまり「キー」の話をメインにしたいと思います。そしてその中でもなかなかマニアックなトピックである「複調」について書いていきます。
この「複調」、英語でいうと「ポリトーナル」というらしいですが、私はこの不思議な響きが大好きで、昔は作曲によく使ったりしていました。
複調の響きを体験してみよう
まずは論より証拠ということで…試しにお手元に鍵盤がある方は以下の例を試してみてください。
【例1】
右手:Bメジャーコード/左手:Cメジャーコード
【例2】
右手:Cメジャーコード/左手:Aメジャーコード
【例3】
右手:Cメジャーコード/左手:F#メジャーコード
…どうでしょうか。この他にもいろいろありますが、要は「割と遠い」関係の調のコードを同時に弾いてみるというのがポイントです。
ここで「割と遠い関係」と書いたのは、「サークル・オブ・フィフス」的に考えた場合の遠い調のことです(この調の仕組みについて説明していると長くなるので今回は割愛します、すみません)。
で、弾いてみてわかったかと思いますが、なかなか鮮烈でマニアックな響きになるためか、この手のコードの使い方はロックやポップスでは殆ど聴いたことがありません。じゃぁどこで使われているかというと、クラシックにはその起源がみられます。
クラシックに使われている複調
もともとクラシックでは「近代クラシック」という時期に分類されるドビュッシーあたりから現れてきたらしいですが。
クラシックで「複調」といえば…私の大好きなストラヴィンスキーの「春の祭典」。この曲中で和音を連打する有名なパートがありますが、ここは複調ならではの破壊力ですね。
www.youtube.comそして、クラシックで紹介したいのが、もう一人、存命してた年代は2006年までと、割りかし最近のクラシックの作曲家、ジョージ・リゲティ。
リゲティは民族音楽をクラシックに取り入れた人としても知られてますが、タモリ倶楽部的なトピックとしては…リゲティといえばメトロノームを100台使ったポエム・サンフォニックでしょうか(これは調性は無いですけどね!)。
www.youtube.comそしてリゲティで複調の音楽のおそらく有名な曲はこれ…その名もピアノ練習曲集 「無秩序」。
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この曲の調性はは右手がCメジャー、左手がBメジャーという凄まじい代物。CメジャーとBメジャーは、お互いが遠い関係(サークル・オブ・フィフス的に)の調なのでかなり不思議な雰囲気をかもしだしてます。
ポップスの簡単な歌伴程度しかピアノが弾けない私からしたら、作る人も弾く人もどんな頭の構造をしているのやら。
最近の曲にも複調が!?
というわけで調性がまったくない無調音楽ほどではないけど、どこか別の世界へトリップできるような複調音楽でありますが…最近こんな面白いトピックが。
以前にジャスミュージシャン・文筆家の菊池成孔氏が自身のラジオで、オーストラリアのラッパーのイギー・アゼリアの「ファンシー」の曲の構造について取り上げていました。
www.youtube.comこの曲の「I’m so fancy~」の部分がとても興味深く、ベースラインのキーがCマイナー、メロディラインのキーがE♭メジャーなんです。
ちなみにこの両方のキーの調合(フラットの数)は「3つ」なので調合的には同じなんですが、これがだいぶエポックメイキングな作品のようです。
上記で紹介したクラシックと違い、トラックの音数は少ないのでぼんやり一聴すると普通に聴こえますが、ベースがマイナーキーで歌メロがメジャーキーでありつつも、ド頭の瞬間はメジャーコードなのです。この「ド頭」というのはまさに、この間書いた、音楽の「微分」です。
このように曲を微分、つまり瞬間できりだすと、ド頭はメジャーコードの響きですが、だんだんメジャーキーとマイナーキーが同時に溶け合ってていく不思議な感じを体験できます。
ただ調合的にフラットの数は同じなので上記に挙げたようなクラシックみたいな強烈な響きは無いゆえポップスとしてありな感じなのでしょうか。
終わりに
というわけでまだまだ作曲における調性の可能性はありそうです。ただやりすぎるとアバンギャルドな感じになるので、上手く隙間をついた感じの曲がこれからも出てくるかもしれません…ということですね。
ではでは。